ひとりの時間の過ごし方
ひとりになってしまった。
最愛の妻のいなくなったこの部屋にちょこんとひとり取り残された私は、クイーンサイズのベッドの上で、体操座りの格好でぼーっと天井を見上げていた。
離婚届と手紙の乗ったテーブルが、ドアの隙間から視界を侵す。
私は黙ってリビングに続く扉を閉めた。
「ひとりでこの家は、少し広いな…」
そんなひとりごとを聞く者はもう、少し汚れのある軋んだベッドだけだ。
どうしてこんなことになったのだろう。私はずっと彼女のために尽くしてきた。彼女を愛していた。仕事を頑張ってきたのも、もちろん彼女と子どもたちのためだ。子どもたちが家を出て、私も定年を迎え、やっとこれからというところだった。なぜ彼女は私の元を去ってしまったのか。
「いざ自分のこととなると、全く何をして良いか判らなくなるものだな…」
ベッドに語りかけながら、記憶を撫ぜる。最後に彼女と交わした言葉は何だったか、今となっては曖昧だが、彼女の声、温かな鼓動は今もこの耳と手に残っている。
そんな彼女ともう会えなくなるなんて、思いもしなかった。子どもたちにも暫く会えなくなるかもしれない。だが、出来るだけのことをしよう。手紙については心配ないだろう。ちゃんと写したはずだ。この汚れたシーツも洗わなくては。そしてこのゴミを片付けよう。
終わり