私の未来予想図
▪️ 今回のテーマ:私の未来予測図
状況は非常に良くなかった。
何せ、まるで手も足も出ない。
「話が違うよボス…!」
僕は顔も声も知らない男にボヤきながら、打開する策を探っていた。
「私の能力の前に敵はいない。」
最初は何を言っているんだこの男?と思いつつ、いつもの通り作戦を遂行してすぐに引き上げるつもりだった。
しかし、こちらのナイフが空を切り続けるこの状況は、その言葉がハッタリではないことを物語っていた。
自慢ではないが、僕の腕はそこそこ立つ。そして僕ほどではないが、既にどこかの床に伏す同僚も勿論プロフェッショナルだ。しかし、5人で突入したにも関わらず、20分と経たずしてこのざまだ。
最初に突入したのはジョーとアマンダ。彼らが屋上からロープを使って窓から突入し、間髪入れず、僕も含む残りの3人が扉を破って突入する手筈だった。
しかし、ジョーとアマンダが突入した部屋はもぬけの殻。ターゲットの代わりに大量の時限爆弾が彼らを迎えた。
残り3人。
「ちくしょう!アマンダ!」
バッカルコーンが怒りに任せて壁を殴る。そしてしゃがみ込むバッカルコーン。
「…?どうしたでやんす?バッカルコーン?」
バッカルコーンと仲の良いヤベが声をかける。しかし、バッカルコーンは床に崩れた。
「ひぃっ!」
ヤベが声を上げる。しかしヤベもプロだ。バッカルコーンの死、そして殴った壁を確認する。
「針…でやんすね。」
そこには髪の毛ほどの細い針があった。どうやらバッカルコーンはこの針にやられたらしい。毒が塗ってあったのだろう。
残り2人。
残りは僕、ヤベ。ターゲットはもうこのビルにはいないかもしれない、そう思いながらも僕たちは探索を続けた。
吹き抜けの部屋に出ると、階段がある。
警戒しながら階段を上がると、鉄の扉。どうやら、屋上に辿り着いたようだ。
そして僕たちは遂に出会った。和かな笑顔を湛えた初老の男。名前と素性は知らないが、写真と同じ人物だ。
「やってくれたでやんすね…。よくもアマンダとバッカルコーンを…。」
私情を持ち込むな、と言いたかったが、言ったところでどうなるものでもないので、僕は言葉を飲み込んだ。
「いつも通りで行こう、ヤベ。」
そう声をかけた時、既にヤベは200メートル下に向かって落ち始めていた。
ヤベの足元の床が綺麗に崩れていた。吹き抜けを通じて地上まで一直線だろう。
「ヤベ君、運がないね、彼も。」
初老の男が僕に語りかける。
「君たちがこのビルに侵入して来るのは知っていたよ。その後どんな行動を取るのかも、手に取るように分かっていた。それが僕の能力だからね。」
「能力?」
漫画じゃあるまいし、イかれた奴に付き合う気は無かったが、情報は貴重だ。
「私の能力の前に敵はいない。この私の"未来予想図"の前にはね!」
そこからは一方的だった。ナイフは空を切り、隙を見てターゲットがローキックを入れてくる。地味だがキツイ。
「この能力は素晴らしい!まさに無敵だ!あのアマンダも居なくなったのだからね。」
「…?アマンダがどうした?」
僕がターゲットの言葉を理解しあぐねていると、
「残念。居なくなってないよ。」
階段の方から声がする。それはよく知る声。アマンダの声だった。
「アマンダ…!貴様!何故!爆死した筈では…!」
「ジョーが盾になってくれたの。そして私は今まで死んだふり。あなたの能力は未来の予想図を"映像"として投影する。だから死んだふりはとても有効。クマより単純ね。あなたの能力の弱点はよく知ってる。」
ニコッと微笑むアマンダ。
「なんせ、それ、元々私の能力だし。返してもらうよ、私の"未来予想図"。」
後でアマンダから聞いた話だが、昔、マルコムという男、つまりターゲットに能力を奪われ(それが彼の能力だったようだ)、それ以来能力の奪還条件を満たすために追っていたらしい。
奪還条件は、対象と会話をすること。つまり、突然のアマンダの登場に動揺したその時、能力の所有権はアマンダに移ったのだ。
そこから僕は迅速に仕事をこなし、アマンダと帰路に着いた。
「今回はハードだったんじゃない?」
アマンダが話しかけてくるが、こちらは疲れ切っている。
「ごめんアマンダ、ちょっと疲れたから寝ても良いかい?頭が追い付かなくて」
「あら、それなら2週間ほどバカンスでもどう?ゆっくりしたらいいわ。」
「そんな休みが貰えるなら、ボスを抱きしめてキスしちゃうね。」
それからどうなったか。ここまで"予想"してたのかい?アマンダ?
終わり