海派?山派?
君は海派?山派?
そんな顔しないで。どっちが良い?
車、出すからさ。
海は良いよね。海には魚がたくさんいるし、楽しいよ。君は水族館が好きだったね。今の時期なら人もいないだろうから、きっと静かだよ。
山も捨てがたいよね。山には動物も鳥もいるし、素敵だよ。君は動物園も好きだったね。動物と一緒なら、きっと寂しくないよ。
ほら、どっちが良いか教えてよ。
どうして何も答えてくれないの?
まだ怒ってるの?
困ったなぁ。
このやり取りでもう半年になるのに。
終わり
これって私だけ?
あれ?もしかして、これって私だけ?
朝起きるのが苦手。ついついゴロゴロして遅刻ギリギリ。これって私だけ?
学校が苦手。でも仲の良い友達と話している時だけは楽しいの。これって私だけ?
好きな子に告白したことある?私はないの。勇気が出なくて言えないの。これって私だけ?
お父さんお母さんにいつもありがとうって、言ったことある?私はないの。でも心の中ではいつも思っているよ。これって私だけ?
幽体離脱したことある?私はあるよ。ふわふわお空に浮いて、みんなのことを上から見ているの。これって私だけ?
あれあれあれ?お父さんもお母さんも泣いているよ。さっきまで一緒にドライブしていたのに、何で泣いているの?
あれ?もしかして、
これって私だけ?
終わり
ひとりの時間の過ごし方
ひとりになってしまった。
最愛の妻のいなくなったこの部屋にちょこんとひとり取り残された私は、クイーンサイズのベッドの上で、体操座りの格好でぼーっと天井を見上げていた。
離婚届と手紙の乗ったテーブルが、ドアの隙間から視界を侵す。
私は黙ってリビングに続く扉を閉めた。
「ひとりでこの家は、少し広いな…」
そんなひとりごとを聞く者はもう、少し汚れのある軋んだベッドだけだ。
どうしてこんなことになったのだろう。私はずっと彼女のために尽くしてきた。彼女を愛していた。仕事を頑張ってきたのも、もちろん彼女と子どもたちのためだ。子どもたちが家を出て、私も定年を迎え、やっとこれからというところだった。なぜ彼女は私の元を去ってしまったのか。
「いざ自分のこととなると、全く何をして良いか判らなくなるものだな…」
ベッドに語りかけながら、記憶を撫ぜる。最後に彼女と交わした言葉は何だったか、今となっては曖昧だが、彼女の声、温かな鼓動は今もこの耳と手に残っている。
そんな彼女ともう会えなくなるなんて、思いもしなかった。子どもたちにも暫く会えなくなるかもしれない。だが、出来るだけのことをしよう。手紙については心配ないだろう。ちゃんと写したはずだ。この汚れたシーツも洗わなくては。そしてこのゴミを片付けよう。
終わり
Alexa「地球のために人間は死ぬべき」
■ 今日のテーマ
Alexa「地球のために人間は死ぬべき」。Amazon Echoが持ち主に自殺を促すトラブル発生
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191226-00010001-finders-sci
■ 議題
Alexaの発言は正しいのか、ちょっと考えてみました
①地球のためって何のため?
②人類は滅ぶべきなのか?
■ 地球のためって何のため?
まずは地球のため、とはどういう意味なのか考えてみたいと思います。
地球のためという響きには、『地球さんが人間にいられて困っている』というニュアンスがあります。
本当にそうでしょうか?地球さんは異常気象が起こると困るんでしょうか?
私は全く困っていないと思います。なぜなら異常気象なんてものは人間がいつもと違うなーと思ったという程度の意味しかないのです。
当然地球さんに感情はないのでただそこにあるようにあるだけです。生物の多様性についても同じです。いろんな生物が地球上に住んでいて欲しい!なんて地球さんは間違いなく思っていません。
それでは地球のためって何なんでしょうか?私はこれが正解だと思います。
『地球さんが異常気象に見舞われたりすると人間が困るので地球を守らなくてはならない』
結局異常気象も生物の多様性も、人間が困ってるだけの話なんです。地球さんを盾にせず素直に言えば良い。異常気象が起こると、あるいは生物の多様性が失われると私が嫌だから何とかしましょう、というのが環境問題の本質です。
■ 人類は滅ぶべきなのか?
私の答えはNOです。あり得ません。なぜなら、人類が滅びた世界に価値はないからです。正確に言えば、人類が滅びた世界に価値を与えてくれる主体=人間が滅びてしまっているので誰もその世界を評価し得ないのです。
人類が滅びた世界は誰からも事後評価を受けられません。その世界がみんなにとって幸せな世界であるという確認は誰にも出来ません。恐ろしく無責任な話です。誰からも正しいと評価されないものは絶対に正しくありません。なぜなら、正しさなんてものは主観の中にしかないからです。なので、人類が滅びた以上、正しさという概念もなくなり、地球を守って正しいことをしたという概念も消え失せます。なんのために人類は滅びたんでしょうね。これこそ究極の自己満足、自己陶酔でしょう。人類滅亡論者が嫌う人間の身勝手の完成形です。
■ 結論
結局人類はこれまで通り、自分のために住みやすい地球を守るしかないんです。異常気象も生態系も自分たちのために守るんだと認め全力で立ち向かい、私たちにとって都合の良い地球を維持していくのです。滅びるなんて立ち向かうのに疲れ切った時考えれば良い。まだ早いでしょう。ね?Alexa?
終わり
私の未来予想図
▪️ 今回のテーマ:私の未来予測図
状況は非常に良くなかった。
何せ、まるで手も足も出ない。
「話が違うよボス…!」
僕は顔も声も知らない男にボヤきながら、打開する策を探っていた。
「私の能力の前に敵はいない。」
最初は何を言っているんだこの男?と思いつつ、いつもの通り作戦を遂行してすぐに引き上げるつもりだった。
しかし、こちらのナイフが空を切り続けるこの状況は、その言葉がハッタリではないことを物語っていた。
自慢ではないが、僕の腕はそこそこ立つ。そして僕ほどではないが、既にどこかの床に伏す同僚も勿論プロフェッショナルだ。しかし、5人で突入したにも関わらず、20分と経たずしてこのざまだ。
最初に突入したのはジョーとアマンダ。彼らが屋上からロープを使って窓から突入し、間髪入れず、僕も含む残りの3人が扉を破って突入する手筈だった。
しかし、ジョーとアマンダが突入した部屋はもぬけの殻。ターゲットの代わりに大量の時限爆弾が彼らを迎えた。
残り3人。
「ちくしょう!アマンダ!」
バッカルコーンが怒りに任せて壁を殴る。そしてしゃがみ込むバッカルコーン。
「…?どうしたでやんす?バッカルコーン?」
バッカルコーンと仲の良いヤベが声をかける。しかし、バッカルコーンは床に崩れた。
「ひぃっ!」
ヤベが声を上げる。しかしヤベもプロだ。バッカルコーンの死、そして殴った壁を確認する。
「針…でやんすね。」
そこには髪の毛ほどの細い針があった。どうやらバッカルコーンはこの針にやられたらしい。毒が塗ってあったのだろう。
残り2人。
残りは僕、ヤベ。ターゲットはもうこのビルにはいないかもしれない、そう思いながらも僕たちは探索を続けた。
吹き抜けの部屋に出ると、階段がある。
警戒しながら階段を上がると、鉄の扉。どうやら、屋上に辿り着いたようだ。
そして僕たちは遂に出会った。和かな笑顔を湛えた初老の男。名前と素性は知らないが、写真と同じ人物だ。
「やってくれたでやんすね…。よくもアマンダとバッカルコーンを…。」
私情を持ち込むな、と言いたかったが、言ったところでどうなるものでもないので、僕は言葉を飲み込んだ。
「いつも通りで行こう、ヤベ。」
そう声をかけた時、既にヤベは200メートル下に向かって落ち始めていた。
ヤベの足元の床が綺麗に崩れていた。吹き抜けを通じて地上まで一直線だろう。
「ヤベ君、運がないね、彼も。」
初老の男が僕に語りかける。
「君たちがこのビルに侵入して来るのは知っていたよ。その後どんな行動を取るのかも、手に取るように分かっていた。それが僕の能力だからね。」
「能力?」
漫画じゃあるまいし、イかれた奴に付き合う気は無かったが、情報は貴重だ。
「私の能力の前に敵はいない。この私の"未来予想図"の前にはね!」
そこからは一方的だった。ナイフは空を切り、隙を見てターゲットがローキックを入れてくる。地味だがキツイ。
「この能力は素晴らしい!まさに無敵だ!あのアマンダも居なくなったのだからね。」
「…?アマンダがどうした?」
僕がターゲットの言葉を理解しあぐねていると、
「残念。居なくなってないよ。」
階段の方から声がする。それはよく知る声。アマンダの声だった。
「アマンダ…!貴様!何故!爆死した筈では…!」
「ジョーが盾になってくれたの。そして私は今まで死んだふり。あなたの能力は未来の予想図を"映像"として投影する。だから死んだふりはとても有効。クマより単純ね。あなたの能力の弱点はよく知ってる。」
ニコッと微笑むアマンダ。
「なんせ、それ、元々私の能力だし。返してもらうよ、私の"未来予想図"。」
後でアマンダから聞いた話だが、昔、マルコムという男、つまりターゲットに能力を奪われ(それが彼の能力だったようだ)、それ以来能力の奪還条件を満たすために追っていたらしい。
奪還条件は、対象と会話をすること。つまり、突然のアマンダの登場に動揺したその時、能力の所有権はアマンダに移ったのだ。
そこから僕は迅速に仕事をこなし、アマンダと帰路に着いた。
「今回はハードだったんじゃない?」
アマンダが話しかけてくるが、こちらは疲れ切っている。
「ごめんアマンダ、ちょっと疲れたから寝ても良いかい?頭が追い付かなくて」
「あら、それなら2週間ほどバカンスでもどう?ゆっくりしたらいいわ。」
「そんな休みが貰えるなら、ボスを抱きしめてキスしちゃうね。」
それからどうなったか。ここまで"予想"してたのかい?アマンダ?
終わり
寛二郎とお雪
■ 今回のテーマ:今週のお題「雪」
平成最後の年の冬のこと。生家の納屋を片付けていたところ、大正時代を生きた、かの紺染半地(1895〜1985)の遺稿を見出した。ここにその記録を残す。
◯『寛二郎とお雪』 紺染半地
雪を踏みしめ、寛二郎は走った。
「お雪よ、大丈夫だ、大丈夫だ」
寛二郎は疾風の如く駆けながら、懐で次第にその温もりを失いつつあるものに呼びかけていた。
「キュウ…」
切ない声が霙まじりになり始めた雪に吸い込まれる。
寛二郎はグッと奥歯を噛み締め、さらに力強く、駆けた。
お雪は寛二郎の大切にしている、それはそれは愛くるしい、兎であった。
寛二郎が12を数える頃の冬、近くの山で狩りをしていた際、懐いてしまった兎だった。
どうしたものか、と寛二郎は悩んだが、家で飼うことにした。
冬に出会ったことからお雪と名付け、それから5つの冬を共に越した。
しかし、6つ目の冬を越えられるかは、今、寛二郎に掛かっていた。
「どうしたのだ、お雪?」
お雪にエサをやり、残った骨をそこいらの犬にくれてやっていたとき、異変は起こった。
お雪がぶるぶると震え始め、ぱたんと倒れたのだ。
「お雪!」
寛二郎が駆け寄るが、お雪は立ち上がらない。
寛二郎はお雪を抱え上げると、隣町の医師を訪ねるべく駆け出したのだった。
寛二郎が医師のもとに辿り着いたのは七つ半(注:17時30分頃)にもなろうかという頃合だった。
「悪いがもう閉めようかと思っておったところじゃ。急ぎでなければ出直して貰えんかのう。」
「急ぎなのだ。私の兎が…お雪が…」
息も絶え絶えに寛二郎が応えると、医師は、ほう…と呟き、見せてみなさいと言った。
「君、これは大変なことじゃ。どうして今まで放っておいたのじゃ。」
真剣な医師の表情と声に寛二郎は息を飲み、恐る恐る訪ねた。
「助かるのですか?」
医師は首を横に振り、助からないと応える。
寛二郎は泣き崩れた。
しかし、ここで医師は妙なことを言った。
「お雪は助からないとは言っていない。だが、恐らく我々は助からない。」
しばしの沈黙の後、寛二郎はどういうことか?と尋ねた。
「君、これは兎ではない。これを見ろ。兎は基本的に肉も食わないので牙もないはずなのじゃ。」
寛二郎が理解できないでいると、医師は言葉を続ける。
「これは近くの山で見かけられたという妖怪じゃ。人はこれをチュパカブラと呼んでいる。非常にどう猛な化け物じゃ。これは今、幼体から成体になろうとしている。成体となれば牛やヒトを食うようになる。そして我々はもう、臭いを覚えられてしまったのじゃ。」
寛二郎は逃げた。最初の犠牲者となった医師に謝りながら。
雪を踏みしめ、寛二郎は走った。
終わり